シンポジウム
まず小児救急における医療提供側の考える以下問題点について国民の意見をお聞きしたい。
次にその意見を取りまとめ、それを新たなテーマとして議論を重ねたい。
問題点
① 24時間365日の小児一次救急診療
コンビニ化した小児救急医療とそれを助長する時間外の医療助成
② 崩壊する二次救急医療と存在しない三次救急医療
二次救急施設に直接受診する患者増大と小児救急の三次医療の現状
③ 日本小児科学会の提案
小児医療救急および入院医療の集約化、地域医療の存続
④ 小児科医のQOLが改善しないと小児医療の継続は困難
「あまり疲れている医師には診て欲しくない」患者と著しい疲労がある小児科若手医師。
現状の病院勤務小児科医の離職の可能性の増大とそれに伴う小児救急医療の危機。
今後、継続的に質の担保された医療を幅広く提供するには、行政と医療者は何をなすべきか、そして国民はどのように行動するのか。
医療資源が無限ではないことを大前提に、真摯に討論をお願いしたい。
学会 事務局2007.07.31
「小児救急の向かうべき道は?」
このシンポジウムではまず医療提供側の問題点を提示し、これに対する国民の意見を拝聴したい。次にはその意見を取りまとめ、それを新たなテーマとして議論を重ねたい。
ここでの「小児救急」は、平成14年の日本医師会小児救急問題検討委員会の発表による「保護者が救急と感じたら全て救急である」の意味とした。わが国の救急医学における「救急」の定義は、結果として救急救命処置が必要となるような急性病態への対応であることから考えると、この「小児救急」の定義は“未経験な子育て不安にある”保護者に極めて優しい定義であり、「子育て支援」の側面を含んでいる。
1. 24時間365日の小児一次救急診療
一次救急診療とは、ヒトが急病になって先ず受診する場合の医療行為である。小児では受診後の判断で90%以上が軽症とされている。平成14年度厚生労働科研衞藤班の調査では、時間外一次救急診療の受診行動が24時間365日化していることが示されている(図1:渡部他:日本小児科学会雑誌2006:110(5);696)。
時間外受診が日常(通常時間)診療と同様と考えられているように見えるし、むしろ「夜間は待ち時間が少ないから」とさえ公言する患者も居るほどであり、「コンビニ医療」と言われている。最近、首長選挙などで、子どもの医療費を負担なしにするという「子育て支援」を謳って当選することが少なくない。医療を何時いくら使っても「タダ」となれば、当然、時間外受診も増える。近年、小児科医の間でこの点に疑問を呈し、少なくとも時間外の医療助成は除外すべきではないかの意見が出始めている。この議論も国民を含めてなされるべきである。
2. 崩壊する二次救急医療と存在しない三次救急医療
本来、救急は国が定めた休日夜間急病センター(診療所)で対応し(一次救急)、入院加療が必要と認めた場合には、より高度な入院設備のある医療施設に振り分ける(二次救急)。明らかに集中治療を要するような重症は三次施設(救命救急センター)へ受診することになっている(三次救急)。
小児救急においては、休日夜間急病センターの診療時間が限られる、基本的診療設備に欠ける、非小児科医の診療もある、近年の国民の「専門医」志向などから、小児科医が当直している病院即ち二次施設に直接受診する例が増えている。
わが国の小児科標榜の病院における平均勤務小児科医数は2.3人で、この人数で増え続ける「小児救急」に対応しなくてならない。(日本小児科学会調査:http://jpsmodel.umin.jp/)当然、過重労働となり離職が増え、小児科標榜の病院は減少の一途を辿っている。自殺すら発生していることは記憶に新しい。(http://homepage3.nifty.com/akira_ehara/karoshi_news.htm)
小児救急の三次医療となると、実際には存在しないとさえ言える状況である。現状は、「成人」の救命救急センターが窓口で、病棟当直の小児科医が対応している場合が大多数である。また、三次対応を要する小児重症患者を管理する小児ICUベッド数は、全国で100床に満たない(桜井他:日本小児科学会雑誌2005;109(1):10-15)。
3. 日本小児科学会の提案
日本小児科学会は、平成14年度から小児医療改革・救急プロジェクトチーム、更には平成16年から小児医療政策室を立ち上げて、小児医療救急および入院医療の集約化、地域医療の存続について提案してきた(図2)。その提案に沿って種々の全国調査を行っており、その結果は学会HPの「小児医療改革・救急プロジェクト」(http://jpsmodel.umin.jp/)で公開している。
集約化には多くの大きな障壁があることが明確になっている。集約化に伴い「集約される」側の立場、既存の制度に恩恵を受けている国民の要望、自治体や経営母体のエゴ、医師個人の考え方、医療経済の構造的な欠陥、などが挙げられる。
4. 小児科医のQOLが改善しないと小児医療の継続は困難
日本小児科学会では、市民の参加を得て毎年2~3回の「小児救急市民公開フォーラム」を開催してきた。その中で市民からは「あまり疲れている医師には診て欲しくない」との意見が述べられている。その一方で、日本小児科学会の小児科医のQOL調査で若手医師を中心に著しい疲労があることが報告されている。その結果、離職を考えるに至った医師が極めて多いこと、そして仕事の満足度が低いことが分かっている。(小児科勤務医ストレス調査2006)
小児救急医療にとって病院小児科(医)が必須であり、その崩壊が全体の崩壊につながることは誰も否定しない。しかし、現状の病院勤務小児科医は、疲労が多く、仕事の満足度が低く、ちょっとしたきっかけで離職する状況であり、小児救急医療の危機にある。
その原因の大きなひとつに労働時間があげられる。今、卒後研修医の“労働時間”が週40時間となっているが、医師の労働時間には規定がない。今後は、医療の安全を確保する労働条件を探り、その条件下で医療提供体制は如何にあるべきかを総医師数も含め検討していく必要がある。
以上、危機的な小児救急医療における医療提供側の現状を絞り込んで提示した。今後、継続的に質の担保された医療を幅広く提供するには、行政と医療者は何をなすべきか、そして国民はどのように行動するのか、医療資源が無限ではないことを大前提に、真摯に討論する必要がある。
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