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開催の様子

女性のワークライフバランスと医療・介護

井部(座長)頂いたご意見、ご質問を紹介します。まず「ワークライフバランスという議論は、核家族世代を対象としたもので、伝統的な家族制度の見直しが前提にあるのではないか」という指摘をいただいております。またワークライフバランスに関連して「短時間正社員(制度)の具体的なしくみと実際」や「企業を含めた社会全体の取り組みの現状と今後」について質問を頂いております。

脇坂(座長)医師でも介護職でも、短時間勤務が、パートタイマーとフルタイム正社員とに二極化しているが、何とか職を一緒にできないかという話があったと思います。厚生労働省が一昨年「パートタイム労働法」をつくりました。今日の報告者の岩田喜美枝さんが当時、厚労省で長年、その法律作成に努力されておられましたので、岩田さんから、このパートタイム労働法の社会的インパクトや限界についてお話を願えたらと思います。

岩田日本の労働市場の二重構造性と、それを是正する「ものさし」を作るのが一番難しいですね。ヨーロッパの市場は、職種という概念がしっかりとしていて、労働内容が同じなら、フルタイマーであろうとパートタイマーであろうと、基本的には時間比例で支払われます。
日本では、パートタイマーの賃金はヨーロッパ型です。仕事の中身が具体的に決まっていて、企業横断的な労働市場をもとに決まる時間単価に労働時間をかけることで賃金が決まります。ところが、日本の正社員の賃金は、企業の賃金体系や企業の支払い能力に応じて決まりますので、同じ仕事をしている正社員がA社とB社で同じ賃金を払われていないことが多いと思います。
このように、パートタイマーと正社員の賃金の決まり方が違うので、両者の均衡を実現するルールを作るのが難しかったのですが、とりあえず作りました。けれども、このルールがシンプルではありませんので、本当に力を発揮してくれるのか心配してみています。
私は、企業がやれる事は、パートタイマーと正社員の間に転換する仕組みを作ること、これが一番近道だと思うのです。企業は、転換する仕組みを作る際、同時に様々なことをやります。例えば、今、時給800円のパートタイマーを正社員の処遇につなごうとすると、転換の道を作るだけではすみませんので、パートタイマーを育成して、能力に応じて時給1,000円の仕事をつくり、時給1,200円の仕事をつくり、その中から正社員に転換していく道をつくります。このようにすれば、結果としてパートタイマーの育成と処遇改善が進んで、正社員との均衡がとれるのではないかなと思っています。

脇坂(座長)このパートタイム労働法には、フルタイムだけでなくパートタイムの正社員への転換制度を推進しましょうと書いてあります。今、パートタイマーで能力のある人が短時間正社員になり、次に子育てなどを終えてフルタイム正社員に移る転換制度は、一部の先進的な企業が行っているのですが、なかなかうまくいかない。でも、まったく芽がないというわけでもないので、そういう仕組みを病院や介護施設で、先進事例を見ながらやれば出来るのではないかと思っております。

岩田私は、お医者さんや看護師さんを、正社員の身分で勤務時間を短縮する、ことについてのハードルが、それほど高いとは思いません。正社員でないパートの方を短時間正社員にするというハードルの方が、うんと高いと思います。今、政府も女性医師確保の為に、短時間正社員の医師を作る政策を打ち出しており、これはできないことではないと思います。もちろんNo work, No payですから、短くなればそれだけ給料が減るというのは当然の事です。

井部(座長)看護の世界は長年、「常勤(フルタイム)が一人前」という「正社員」の固定観念が強く、パートタイマーは非常に少なく、嫌ってきたわけですね。一方、介護福祉士の世界は6割以上がパートです。この短時間正社員制度というものを活用するには、どのようにアプローチしていったらよろしいのでしょうか。

内田例えば介護職の場合は、特別養護老人ホームと老人保健施設とかに勤めていれば、必ず夜勤があり、16時間勤務です。大体どこも例外なく「2日分の勤務をしてしまう」というやり方で、看護師さんたちのように準夜・深夜というふうにできません。色々試みたのですが、準夜と深夜をつくると、職員があまりにも少なくて、かえって休むところがなくなってしまい、できなかったのですね。
利用者の定員が50人規模、介護職が17,8人の施設で、近隣の同じような施設と提携を結んで職員が行ったり来たりできるように法律が認めるのであれば、短時間労働も可能と思いますが、今のままでは難しいのではないかと思います。

脇坂(座長)民間企業では、短時間しか働けない優秀な従業員がいたときは、工夫する。法律の壁があれば少しずつクリアするなど、やる気があれば知恵は出てくるものなんです。

荒木医師のパートの世界では、通常の市場と逆転していて、常勤医よりパートの方がはるかに楽で、給料が良いのが現実なので余計、女性はそちらへシフトしています。また短時間正社員制度というのは、システムとしては非常に良いし、今までの不均衡を是正すると思いますが、「子供が幼稚園、小学校に行っている間は働くけれど、家に帰ってくる時は家で待っていてあげたい」という希望で時間が重なってしまう。するとやはり、今、手薄になっている深夜帯や休日の労働を、誰がどう負担するのか、そして、その負担に不均衡が生じないようになにが必要か、非常に大きな問題です。負担が集中するとシングルの女性男性が「自分達だけが、わりをくっていて、ペイも悪い、何も悪い、全てが悪いところが押し付けられている」となります。
又、胃がんの手術は大勢の医師が必要なのに診療報酬は極めて安く、コンタクト外来みたいに一人の医師がやればすむことの診療報酬が高いので、医者の卵たちも皆3Kを嫌って、「短時間で儲けられて、死なない」ところにどんどんシフトし、いわゆる外科など本幹の部分に人がいない。産婦人科も難しいお産などは空白になってしまう。短時間といったときに、技能の評価等に透明性があり、この評価でスキルもあるから、この値段であるというものが伴ってこないと、変な不均衡が生じるような気がします。

脇坂(座長)短時間正社員に一番近いのは「育児短時間勤務」です。百貨店が20年前から導入しており、現在では小学校の低学年もしくは高学年まで短時間勤務がとれます。導入したところ、ほとんどの人が子供を迎えに16時過ぎに帰り、そこから百貨店はお客がどんどん来るので、売り場が非常に困ったのです。最初の3-5年間は、「何故小さい子供のいない我々がするのか」と今のお話と同じで不公平だと問題になりました。ところが今や、対応の仕方は評価方法も含め、職場により全部違いますが、普通の百貨店では100-200人、常時そういう人がいるのが当たり前になりました。

井部(座長)病棟の管理者は、スタッフを20-30人位抱えています。その立場からみると、午前9-12時まで働く人、夕方から働く人、夕方5-10時まで働く人など様々な短時間勤務の人たちにとってワークライフバランスがとれるかもしれませんが、それをひとつのチームとして、人の配置の調整計画を立てる管理者の大きな負担が想像されるのですが、どうでしょう?

脇坂(座長)百貨店の場合、最初は種類が少ないシフト勤務でしたが、次第にパターンが増え勤務表を組むのが大変になりパソコンのソフトウェアなどの投資が必要となっています。百貨店の人事部長が、「サービス業や接客業は、そこに投資をしなくてはいけないんだ。従業員がきちんと能力をつけて、働きたい時間を働くんだ」言っていたのが非常に印象的でした。
いろいろな病院が短時間正社員勤務制度をやっているのですが、勤務パターンは百貨店ほどないんですね。勤務パターンが増えてきたらソフトウェアが必要になリますが、市販ソフトを買うか、病院なりに修正すれば、それほど負担はないです。あとは人間関係の問題です。

嵯峨崎私は江東区で毎年、乳がん、子宮がん等の検診業務を6-12月までの7ヶ月間行っています。例年その報告書を、月末締めで翌月の一週間位で、レセプトと一緒に医師会に提出しないといけないのですが、医療事務と看護師にとり、一週間で何百人分もの患者さん氏名などのデータの手書き作業を行うことがものすごく負担になっており、残業をいくらしても、すごく抑えられている検診の診療報酬では決してプラスにならない。
そこで、保健所に「検診を受けたい人は増える一方で、提供する人材も現場だけで手一杯だし、事務作業に時間をかけていられない。システムを作って欲しい」と相談したところ、検診率を上げるために努力を一緒にしていこう、とシステムを作ってくれました。今年からこれを導入し、ものすごく楽になり、クリニックのレセプトシステムと連動させて、さらに良くなりました。他のクリニックで同じ問題を抱えていたところが今後参加していくことになります。
「皆が声をあげていって、一緒に変えていく」ということが大事で、結果として勤務のシフトを組む方も、マネジメントをする方も、かなりストレスが減ったという実例です。

荒木病院業務はすごく書類が多いです。新聞の投書欄に、「医者がPCばっかり見ていて自分のほうを向いてくれない。」とクレームがあるけど、私たちも患者さんの方を向きたいのだけれども、PCの入力をほとんど医者がやらなくてはいけないのですね。
薬も予約も今まで本来だったら事務がやらなくてはいけなかったことまで、全部私たち医者の仕事になっているので、システム化の時に入力スタッフみたいなものにお金がついてくれないと、一方では便利になっても、他方で過重な負担がかかってくる。

嵯峨崎私は以前、女子医大のある科で、担当のドクターが患者さんとちゃんと話をしている横でレジデントの若い先生が必死で入力している様子を拝見しました。これはすごく勉強にもなるし、とても良いやり方だなと思ったんです。事務職の方でも看護師でも良いと思うのですけれども、二人体制でやるのは、経営的に難しい部分もあるかもしれないけど、患者さんにとってとてもありがたい事ですし、ドクターにとっても患者さんと向き合いきちっと話ができて、記録もきちっと残せて、かえって早い。その方が患者さんの人数も多く診療できる良さもある。
大学病院だから出来る事であるのかもしれないけれど、民間病院で全く出来ないかというと、事務方の人数が多いところだと出来るのでは、と思いましたね。

荒木私も、日本の医療の今後の方向性に、「それぞれの役職の分担を明確にしよう」と書かれていたのはまったく本当にそうだと思います。私も、医者なり看護師なりが、本来の業務ではないことに多くの時間をとられている現状を、医療事務など対応する職種を配置して、各々がプロフェッショナルな業務に特化できるようにしたい。すみわけをきちんとして、それに対する対価を妥当なものにしていくことが、良い医療につながると思います。

嵯峨崎おっしゃるとおりですね。検診は数をやらなくてはいけない。希望が多いと同時に、女医さんだからこそ話がしやすいので、検診をやりつつ、前後で時間をつくり枠を別にして、相談業務や二次検診を行い、先生方に協力していただいく。そして長くなる話に関しては看護師・助産師が別枠でフォローをしていく。医師が検診をした後もずっと相談できる環境に、一般の方は価値を感じていらっしゃる。

井部(座長)それでは、今井田さんへ「主婦の方の介護の日々の生活で、何をいつ、外部の方に手伝っていただいているのですか。」との質問について伺いたいと思います。

今井田先ほども申し上げましたように、まず排便ですね。それから入浴、訪問診療。また、例えば今日のように私がでてきておりますときにはヘルパーさんにお願いをしております。月曜日は誰も入っておりません。私がほとんど主人の世話をしながら、自分のライフワークをしております。火曜日と金曜日は午前中、看護師さんが入っております。水曜日の午前中は入浴サービスが入って、木曜日は隔週で訪問診療です。訪問診療は午後でございます。そうしますと、私は午前中に主人がいられる場合は午後自分のことをしておりますし、特別に私がどうしても家を空けなくてはならないということ以外はヘルパーさんにお願いはしておりません。ほとんど自分でやっております。

井部(座長)私は今日初めてお会いしたのですが、非常に明るい「介護のある生活」をしておられ、充実していらっしゃるようにお見受けするのですけれども、これは当たっていますか?

今井田当たっています。決して大変だと思っていません。本当に大変な時期は、子供を育てつつ仕事をしながら主人を診ていたときです。もう十何年それこそ寝たきりで、まったく自分の力では体を動かすことは出来ません。そんな主人の背中をさすったり、会話のない会話をしたりなんかしていますけれども、私は本当に大変だと思ったことはないんですね。
お父さんがこういう病気になって、色んな方に出会って、今日もそうですけれども、たくさんの方にお目にかかれて、色んなお話も聞けたり新しいお知恵を授かったり、色々勉強することがたくさんあります。ですから、本当に小さなことで、喜びというか嬉しいことを発見していると、けっして介護もこういうふうな(下向きな)感じにはならないのではないかなと思います。息子二人が非常に協力して、お父さんを本当に大事にしてくれていますので、大きな支えになろうかと思います。

井部(座長)介護制度や医療制度で、こういうサービスがもっと考えられるべきだというようなことはありませんでしょうか。

今井田そうですね。母が亡くなる時、1週間ほど主人をショートステイに、どうしてもおあずけしなくてはならなくなりました。主人は言葉が出来ませんからコミュニケーションが出来ないからでしょう、1週間後、お迎えに行ったら顔が真っ白になっていて、「ああ、やっぱりかわいそうなことをしたな」と思いました。それ以来、どんなことがあっても在宅で、それこそヘルパーさんにお願いしたり、家族の者にお願いしたりして、日々の生活を過ごしております。

嵯峨崎少し補足致します。今井田さんのところに、うちのクリニックから訪問看護・訪問診療をして約7年ですが、多くの方と今井田さんのところが明らかに違う点は、トラブルがほとんど起きないことです。たぶん一番は、今もってきちっと体を起こして、普通食を、多少きざみますが、口から食べさせていらっしゃるところだと思います。今井田さんは淡々とされているんですけれども、ものすごく粘りのいることです。
すぐ医療者というのは流動食にしたり、胃瘻をつくったり、介護側が楽な方に導こうとする傾向がありますが、あえてそこをゆっくりゆっくり、ご主人のペースにあわせることで、体のバランスをとてもうまく保ち、感染もほとんどおこさず、風邪もひかない。「日常の生活のペースを崩さない」ことが、一番良い状態を保っている理由と思います。
在宅介護では排泄が結構大変で、一般の方は「おむつ交換がものすごく労力ではないか」と思われるかもしれませんが、今井田さんの場合は「計画排泄」です。週二回のこの時間にきちっと排泄を出来るように、プランを立てることで、ご本人も今井田さんも看護師も、負担感がものすごく少ない。今井田さんの場合は時間を絶対守る、それが最大のポイントです。それで、ご家族が決めていらっしゃる24時間の生活のリズムを、医療職や介護職の都合で崩さないようにすることが、一番重要なのかなと思います。 さらに、病状をしっかり理解されていて、先々、こういう形で最後まで看取りたい、というイメージをきちっと描いていらっしゃることも大きいと思います。だから、何かあっても慌てふためくことがないんですね。
それから、何かあると相談されるパターンがずっと継続してあるので、診る側もとても楽です。そんなに大変だと思ったことがないというのは、リズムを誰もが守ろうと努力していることなのかなと思いますね。

今井田それから、息子がどんなに遅く帰って来ましても、1日1回、リビングのイスにお父さんを座らせるのですね。前は1時間位、わりに座っていてくれましたけれども、今は30分座るとどうしても下がった血が上に戻らないと白目のようになってくるので、子供がそれをよく観察しながら、お父さんも連れて行って座らせてもらいます。そういうことが、1つの1日の目安のように感じているのではないかな、と思うんですね。
排便にしても介護士さんが帰られた後に、たくさん出たときは、「ああ、こんなにお腹に溜まっていなくて良かったね。」と言うんです。けっして、「またこんなに出ちゃったの」とか、そういうことは一切言いません。そうすればお父さんも安心して、排便ができる。「こんなにお腹にあったの。自分の力で出せてよかったね。」と褒めてあげるんですね。だから、本当に介護の中で大変だと思うことは皆さんのお助けを借りていますから、思わないように頑張っています。

井部(座長)ほかに「介護職頑張ってください」というコメントや「核家族の多い社会で無くてはならない職業だと思います。職種のイメージアップや地位向上を願っています。」「鬱の人が多いので介護職のワークライフバランスが大切ですね」というご意見を頂いております。 また医療コーディネーターについて「重要性がわかった」のですが、「報酬はどのようになっているのでしょうか。相談料は払うのでしょうか。」という質問を頂いております。

嵯峨崎医療コーディネーターにフリーランスで相談の場合は、1時間10,500円いただいているのですが、医療機関にコーディネーター外来という形で紹介状を持ってこられた場合は、通常の医師と組み合わせた診療報酬の中で受け取るようにしていますので、ほとんどかからないです。無料の相談も受けています。基本的に報酬を得ることが大事ではなくて、その方が持っている生活障害の視点に立ち、困っていらっしゃることに対し相談を受け、しっかりとした介護や治療につなぐ役目を大事にしています。医療コーディネーターは診療所や病院の看護師さんが、相談という形で受けているのがほとんどです。

脇坂(座長)他に資生堂の男性育児休業制度について、具体的なポイントを伺いたい、との質問です。

岩田制度を導入するときの第1のハードル「社内のコンセンサスがえられるか」については、これまでの両立支援策の利用者が殆ど女性で、今回は明らかに「男性をターゲットにした男性のための制度」ということから、コンセンサスは早くとれました。第2のハードル「発生するコストを会社として負担出来るか」については、男性取得者が年間十数名、2週間で、有給化しても費用増は大きくなく、ハードルが低かったです。

脇坂(座長)私の基調講演での男性の働き方を変えるという部分の説明に補足させていただきます。
男性が育児休業を取ったケースを調べると、データでは、出張が多いなど大変忙しい人なんですね。どうしたら時間をより効率的に使えるか、と考えているのでしょう。育児休業は、女性が多くとるようになり、さらに男性がとって変わっていき、男性の働き方を変えていくと思います。会社によっては孫が出来たときでも休業をとれる会社があり、うちの大学でも早くやってくれないかなと思っております。ある厚生労働省の研究会で話しましたが、相手にもされませんでしたけれど。

井部(座長)ありがとうございました。では、最後に脇坂(座長)先生にまとめていただきます。

脇坂(座長)私は、医療介護でまとめることは出来ないのですけれども、昨年から日本看護協会と共同で仕事をしており、訪問現場である家庭は様々な社会の矛盾が集中しているところと感じています。さらに研究をして、看護白書に一章くらい最後のご奉公で書きたいと思っています。

井部(座長)ありがとうございました。それでは、本日の市民シンポジウム女性のワークライフバランスと医療・介護というテーマはこれで閉会にしたいと思います。演者の方々、最後までお付き合い頂きました皆さんどうも有難うございました。