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シンポジウム:安心できるお産を目指して

開催内容

みんなが安心できるお産を目指して-役割分担と協調-:中林正雄

今回のシンポジウムでは、日本の産科医療が現在抱えている問題を明らかにして、それぞれの立場から、みんなが安心できるお産のために必要なメッセージを社会に発信したいと思います。

1.日本の産科医療は世界のトップレベル

産科医療の指標であるお母さんの死亡率(妊産婦死亡率、表1)と赤ちゃんの死亡率(周産期死亡率、表2)は、日本は世界のトップレベルです。しかし、世界の平均としては、250人に1人の妊産婦が死亡しており(表2)、最近の報告では日本でも同じ頻度で死に至りうる重症妊産婦がいることが知られています。また、1,000人の出生で3人以上の赤ちゃんが死亡しているのです。

産科医療がどんなに進歩しても、妊娠・出産は母児ともに一定のリスクがあることを忘れてはなりません。

2.産科医および分娩施設の減少

最近の10年間で産婦人科医師数は約15%減少し、分娩施設は約30%減少しています。その原因としては、過酷で不規則な勤務、医療訴訟の多発、その割りに低い収入(ハイリスク・ローリターン)があげられます。

3.これからの産科医療システムの改善策(表3)

今後の対策としては、産科医の増員にむけた待遇改善・医療訴訟対策、病院と診療所の役割分担(ハイリスクと低リスク妊娠・分娩管理)、産科医と助産師のチーム医療、妊娠・出産・育児への公的補助の増額などが必要です。

4.産科医と助産師のチーム医療推進のために

産科施設内で、助産師が産科医のバックアップのもとに、妊婦健診や低リスク妊婦の分娩管理をするシステム(院内助産システム)の普及が望まれますが、そのためには産科医と助産師のチーム医療にむけたガイドライン作成、助産師の卒後研修制度の充実、助産師の増員が必要です。

これからの助産師のしごと-ママと赤ちゃんに寄り添って-:遠藤俊子・山梨大学大学院 医学工学総合研究部

わが国の産科医療は、1960年(昭和35年)に大きな変換をおこしました。出産場所が自宅から施設へ、妊婦健診・分娩介助者が助産師から医師へ、お産が自然から医療への変換です(スライド3)。

そして約50年が経過した今日、さまざまな社会変化を背景に、妊娠・出産や子育てに大きな変化が起こっています。子どもの数が減り、家族における子育て困難感が増強し、虐待などの問題が生じています。

この間、出産を支える助産師はどのような歴史的経緯を辿ったのか、そして産科医療における助産師の役割を現状から考えてみました(スライド5)。産科医療への重要なニーズとして、安全性とともに、親となることや子どもを育てることに安心ができることが挙げられます。そのためには、専門職の人数や質というヒューマンリソースなどの限りある資源と財源をもとに、地域単位で実情に合わせたシステムを早急に創りあげるしかないと思われます。

まず、妊娠・分娩のリスクによって適切な出産施設の選択がされることです。次に、予防医学の側面が大きい妊娠分娩では、妊産婦さんやご家族が自分自身の食事や運動・休息などの生活調整が適切になされることです。ここに助産師の力が発揮されると考えています。

これからの助産師は、女性に寄り添って共に考える存在であることを見失うことのない働き方をするでしょう。

ハイリスク妊娠の集まる総合周産期医療センターでは助産ケアを、様々なリスクの妊産婦が集まる中核医療機関(拠点病院)では、医師と助産師の役割分担による院内助産システムのなかで健診や出産時ケアを行います。また、地域の病院・診療所や助産所では、ローリスク妊娠を中心に健診や産後ケアを充実させます。さらに遠隔地ではITの活用による健診などと、助産師のしごとは、今後広がるとともに重要となっていくでしょう(スライド23スライド24)。

ユーザーから見た安心できるお産:河合蘭・出産ジャーナリスト/REBORN代表

女性にとって出産の安心とは何でしょうか。私が出産・育児サイト「ベビカム」と共同で行った調査では、日本の母親たちは非常に近距離指向で通院時間が30分を越えると途中で生まれるという不安が急増しました。

まして高齢出産の方、難産歴のある方たちは不安です。「産まないでほしい、と言われているよう」と悲痛な声も聞こえてきます。また、通院時間が1時間を越える人が多い岩手県遠野市の女性は、普通のお産なら大丈夫だろう、としながら「せめて、緊急時に受け入れてくれる所がほしい」と切実なコメントを寄せてくれました。出産施設が遠いと、異常事態を早期に発見するチャンスを逃す可能性もあります。こうしたリスクに対応策を打ち出せない限り、女性から集約化への賛成をとりつけるのは難しいと思います。

対応策のひとつをご紹介しましょう。現在、遠野市には市営の助産院が開設されていて、市の助産師さんは市内の妊婦をすべて把握しています。妊婦健診を行うほか、吹雪の夜に陣痛が起きれば産婦さんの家に出向いたり、入院に同行したりします。都市に高度医療の施設がそびえることも大切ですが、助産師によるこうした基本的なサポートこそ産科医療の土台なのだと私は遠野で痛感しました。

集約化に女性が抵抗を感じるもうひとつの理由は、強い信頼関係がある既存の出産施設を失う「喪失感」です。長野県上田市産院の存続を求めた署名運動に参加した女性たちは、上田市産院に本能的な安心できる「巣」を見いだしていたのです。そして巣の本質とは何かというと、そこに勤務する助産師さんとの精神的なつながりでした。上田市産院は助産師さんが一生懸命関わる産院だったのです。

女性には、医療があることを理性で理解する父性的安心と、肌で感じる母性的な安心が必要です。後者がはぐくまれるには、助産師外来、院内助産院のような時間とスキンシップが必要です。集約化は時代の必然かもしれませんが、女性の視点を持った集約化であってほしいと思います。(スライド1,スライド2,スライド3

産科医療再生のために必要なこと-プロジェクト500-:海野信也・北里大学医学部産婦人科学教授 日本産科婦人科学会 産婦人科医療提供体制検討委員会 委員長

わが国の産科医療は危機的状況にあります(スライド1,スライド2)。その原因は多岐にわたりますが、現場で妊娠分娩管理に従事する産婦人科医師と助産師の不足がその原因の最大のものであると考えられています。

現場の産婦人科医不足の理由は、分娩取扱の現場の勤務条件が他の診療科と比較してあまりにも過酷であることにつきると思います。そして、女性医師の割合が増加し、その過酷な条件下で仕事を続けられる若い産婦人科医が減少していることが状況を複雑にしています。過酷な勤務条件を改善するためには、人員を増やす必要がありますが、過酷な現場にあえて参入する人はとても少ない、という悪循環になっているわけです。

今後、地域の分娩の現場を確保していくためには、現有の産科医療にかかる人的リソースを最大限に活用すること、今現場で活躍している人材の離脱を防ぐこと、そして何らかの方法で、新規参入を魅力あるものにすることによって、安定的な人材確保を行うことがどうしても必要であると考えられます(スライド3)。

現在、新規に産婦人科を専攻する医師は毎年320名前後です。しかし全体では毎年180名程度減少しています。この減少に歯止めをかけるためには、新規に産婦人科を専攻する医師が最低500名は必要なのです。

私は、産婦人科を新規に専攻する医師を500名に増やすために系統的かつ必死の運動を行う必要があると考え、それを「プロジェクト500」と名付けてはどうかと考えています(スライド4)。もちろん当事者である、産婦人科医の努力が大前提ですが、どうか国民の皆様にも、地域の産科医療を確保するため、プロジェクト500を応援していただきたいと思います。