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シンポジウム:がん終末期の医療体制を考える

開催の様子

新型インフルエンザに備える

第一部では、新型インフルエンザ流行とは何かを分かりやすく説明いただくとともに、行政、大学、企業それぞれの新型インフルエンザ対策をお聞きしました。いつか必ず来る新型インフルエンザ流行に対して、今何が必要なのか、会場に参加した皆様の質問をもとに討論を行いました。

新型インフルエンザの問題をどのように伝えるか?

押谷(座長)一般の人たちに、新型インフルエンザに関する社会問題の危機感をどのように伝えるのがよいでしょうか。

長谷川1人の新型インフルエンザ感染者が、首都圏で電車で移動した時にどれくらい広がるか検討した結果が新聞で報道されました。患者の診断が確定した時には3000人にも広がってしまうという推定です。感染力の強さが具体的に分かるよい例だと思います。身近な問題を具体的に伝える必要があるでしょう。例えば、パンデミックのときには、中央線、東海道線、常磐線が運休で間引かれて一時間に何本になる、歌舞伎座などの施設が閉鎖される、などです。JRや劇場などの関係者は言わないですが、実際、水面下で準備は進んでいると思います。

押谷(座長)石堂先生は、どのように学生に伝えていますか。本当に、学生さんは理解しているのでしょうか。

石堂昨年麻疹が流行した際は、 ネットを活用して全学生に緊急連絡、指示の徹底化をはかり、特に教員免許などの資格を取得する学生たちには抗体を持つことを厳しく通達しました。他方、新型インフルエンザはまだみえぬ敵でございまして、学生および教職員の危機感は薄いのが実情であります。そのため、学内新聞や学内ネットポータル、特別リーフレットの作成、専門家による講演会等を行ってきました。これらの方法を通して、新型インフルエンザの知識と日常の注意・予防策、情報ソースの周知を中心とした啓発を行っています、ひとたび発生すれば、学生は集中して情報をキャッチするはずで、学内閉鎖時の連絡はネットポータル以外にはないと考えております。

システムが整えば在宅ケアは増えるのか

押谷(座長)次は、多く質問のありましたタミフル備蓄について、備蓄をする意義、特に企業・個人で備蓄する必要についてお伺いしたいと思います。

谷口(座長)その意義は別にすると、現状では、海外の企業はかなりの量を備蓄しています。備蓄における難しい問題は、薬剤をいれる周りのカプセルの劣化で、現在、タミフルの使用期限は5年です。タミフル自体はきわめて安定な薬剤のため、諸外国はタミフルを原末で輸入し、ある国などは完全にアルミニウム包装で100年は大丈夫な形で備蓄しています。
製剤に有効期限があるため、備蓄を継続するには製剤のローテーションが必要となり、その方法も考えた上で行う必要があります。全体の戦略が当然必要ですが、やはり国などが中心となりローテーションできる体制をつくるのが、日本では一番良い方法と考えます。

押谷(座長)個人レベル、企業レベルで備蓄した場合、使う判断をどうするか問題があります。使い方によって、耐性ウイルスの出現を助長してしまう。やはり医師の処方、指示に従って使うのが原則だと思いますし、個人レベルでの備蓄は、私自身は勧めていません。

抗インフルエンザ薬が新型インフルエンザに確実に効くか、分からない。

押谷(座長)タミフルやリレンザという抗インフルエンザ薬が、新型インフルエンザに効くのか、また異常行動、飛び降りなどのタミフル副作用について質問があります。

谷口(座長)バランスの問題と思います。季節性のインフルエンザで通常は自然経過で軽快していくものと、新型インフルエンザが発生した場合では、その状況も副作用も考え方も違ってくると思います。実際にはパンデミックの状況に応じて使い方を考えることになるかと思います。
異常行動などの副作用については、インフルエンザそのものにより異常行動が惹起されることを理解した上で、タミフルが明らかに異常行動を増加させる証拠はないだろうというのがこれまでの研究班のデータと思います。結論は、報告書を待たなければいけませんが。

押谷(座長)タミフル、リレンザなどの抗インフルエンザ薬は確実に効くか、正確には分かりません。現在ある知見は、「普通のインフルエンザに対してある程度効果がある。」「インフルエンザによる発熱の期間が短くなる。」です。新型インフルエンザに対して、この薬を使った経験が一度もないのです。
鳥インフルエンザに感染した380人程の中に、タミフルを長期投与していて亡くなった方がいます。重篤な感染を引き起こす今の鳥インフルエンザに対しては、通常投与量のタミフルでは効かないと言われています。また過去のパンデミックでも、一部でウイルス性の肺炎で重症化することがありました。このような症例に対して、抗インフルエンザ薬がどの程度効果があるか、正確には分かりません。

別の方から「予防で早期投与したとき、症状がなくウイルスが排出されて感染源にならないか。」と専門的な質問を頂いています。可能性が全くないとは言えません。早期投与でウイルス排出をある程度抑えられますが、症状と感染源との関係は難しい問題です。現在、考えられている対策は、予防投薬される人は必ず自宅待機をすることです。実際、他の国では、自宅待機とのコンビネーションで予防投薬が考えられています。

パンデミックのとき、社会機能をどのように維持するのか?

谷口(座長)かなり詳細な質問を頂いていますが、新型インフルエンザは実際の経験がないため、分からないことがたくさんあります。タミフルもワクチンも、確実に効くと言えません。確実な予防は何かというと、人から人へ感染させないことです。それが、今回、地域対策を議論している理由で、この議論は現在世界中でされています。
この「人から人へ感染させないこと」いわゆる社会的隔離(Social distancing)は、実際には、学校の休校、人がたくさん集まる場所の閉鎖、感染者の隔離、接触者の自宅待機などですが、全体の対策を円滑に進めるためには、周辺地域での調整が必要です。今回の講演では、まだ周辺地域との調整まで踏み込んでいないと思います。例えば、東京都では、自宅待機をさせるとありますが、自宅待機をしますと企業に人手がなくなる。しかし、企業の事業継続の対策とどう調整するのか?皆様どのようにお考えでしょうか?

月川都庁の事業継続は、非常に重要な問題です。完全に出来上がっていませんが、社会機能に非常に大きな影響を持つ交通局、水道局などは、対応マニュアルが出来ております。コアメンバーを指定し、例えば欠勤率が3割に達した場合、どのように業務の優先順位を決めるかリスト化しています。
それでも回らなくなる時点が来る想定もしております。例えば、都営地下鉄を動かすための基幹となる機能を維持するために、経験のあるOBを含めたリストを作るなどの作業を進めております。私ども感染症対策部門でも、通常は食品や環境衛生などの監視を行う職員が、第一次配備、第二次、第三次配備と交代制で24時間勤務をするローテーションを考えております。

石堂早稲田大学では、すでに私どもの総合健康教育センターでタミフルを備蓄しております。現状では、予定数を入手できてはおりませんが、3分の1程度は入手しております。タミフルの効力が100%でないことは認識しておりますが、今の段階ではこの選択肢しかないと備蓄を決断しました。タミフルは、常温で備蓄できるのがメリットと思います。
パンデミック状況下で大学を閉鎖しても、数百名の大学機能維持スタッフは必要であり、大学機能維持の最小必要要員が勤務していることになりますので、機能維持するための人数を予測して、その人数分だけはタミフルを備蓄するということです。

鈴木パンデミックのとき、いかに必要な要員を確保するかですね。それぞれの人の問題意識をあげて正しい知識を持っていただくこと、これは教育です。そして、もう1つは仕組みです。症状が出たらすぐに会社から帰り、感染が拡がらないようにする、自宅で何日間待機をしなくてはいけない、など仕組みを作らなければいけないですね。
我々の会社では、パンデミック時のオペレーション優先順位は決まっていて、優先順位の低い業務はパンデミック時には行わない、と整理が出来ています。優先順位が高い部門、特に工場部門ですね、は最低限必要な人数を確保しますし、バックアップもあります。その中でやりくりして、それでも出来なかったら、その時は止める。いつ、誰の権限で止めるか、そのプロセスも含め事前に決めておけば、企業として社会的にやるべきことを果たしたと言えると考えております。

長谷川新聞社は広告、販売、事業、編集など多くの部局があります。パンデミック時には、企業広告はとれる可能性は低いですから、自宅待機となるかもしれません。販売は必要なので、必要最小限の人数は確保誌、宅配するなど各部局ごとに対策マニュアルを作成しつつあります。
問題は、パンデミック時に、社会規模的に情報を収集に行かなければいけない編集の立場です。例えば、地震があるとヘリコプターや飛行機で現場へ行き、社会部のほとんど全員が会社に待機して号外を作る体制になります。同様に、パンデミックのときに自宅待機をすると「お前はこんな大事なニュースの時にこなかった」となるので、原則、全員召集になる。しかし、それが感染を拡げてしまうことになります。今、それを自宅待機しておく必要のない人をローテーションする仕組みにするよう、各部ごとに方針をたてつつあります。
それと、発生の可能性が高いインドネシアや中国などに駐在する記者に対しては、タミフルの備蓄などを積極的に行っております。

社会機能を維持することと感染拡大を防ぐことは、二律背反の関係

押谷(座長)ありがとうございます。今の社会機能をどうやって維持するかというのは、かなり大きな問題です。
30-40%の人が感染発症した場合、企業に出てこられない人は30-40%ではすまないのです。保育園が閉鎖されたら、親は仕事に出てこられない。重症者でないと病院で見てもらえない可能性が高いので、軽症から中等症の人は、自宅療養しなければならない。高齢者や子どもであれば、誰かがその人を看なければいけなくなるのです。
一番難しい問題は、社会機能を維持することと感染拡大を防ぐことが、二律背反の関係にあることです。社会機能をおとせば感染拡大を防げるのですが、職場も学校も全部閉鎖してしまうと、社会機能が維持されなくなり混乱が生じます。社会機能を維持するために必要な部分を、どのように維持しながら感染拡大を防ぐのか、そのバランスが非常に難しいところです。
特に日本では、長谷川さんのお話のように、熱があるくらいで会社休むのはけしからんというような企業風土がまだあります。その風土を含めて社会機能と感染拡大のバランスをとる必要があります。

谷口(座長)社会機能について、どこまでを考えてやるかというのもあります。例えば、ご飯食べなくては生きていけませんよね。食料の生産、加工、流通が止まれば、ご飯は食べられないので、これらも社会機能として重要です。この社会機能維持を考えるには、関連する複数の分野で影響がどこまで及ぶのかを含めて議論しなければなりませんね。

押谷(座長)そこが日本の新型インフルエンザ対策に大きく欠けている部分です。まだ医療の問題からしか議論されていない。いかに社会機能を維持するかというのは、厚生労働省だけで対応できる問題ではないので、国をあげてこの問題を議論していく必要があるのだと思います。
省庁連絡会議という、他省庁をまたがって色々なことを議論する枠組みは出来ているようです。国交省はどこまでこの問題を考えているのか、金融はどうなるのか、取引銀行は動くのか、など危機管理について、具体的な課題に踏み込んだ議論が今後、必要と思います。

谷口(座長)まだまだたくさん質問がきており、全部にお答えするには時間がかかりそうです。また、押谷(座長)先生が、次のご予定があり非常に残念ですがここで退席されます。

どうやって社会全体で取り上げていくのか

谷口(座長)以前アメリカでパンデミックにおける地域対策に関する会議に参加しました。500人規模でいろんな分野の方が集まって、喧々諤々5日間議論しました。それを米国疾病対策予防センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)という国の機関が、最終的に取りまとめていました。
日本でも、同様に、関係者、専門家、政府機関の人達が、それぞれの視点、角度から石油、食料などについて具体的に議論する必要があり、そのためには、一般の皆様からのご意見を聞いていかなければなりません。しかし、難しくなかなか進まない。講演者の方々は各立場で考えておられますが、自分のところだけでは解決できない問題点がありますね。先生方は今後どのように連携を進めようと考えていますか。

月川東京都は、保健医療体制を中心に地域の協議会で、様々な方に参加頂き、地道な積みあげをしていきたいというのが一点、それから、東京都全体として、特にこれから力を入れることは、事業者の皆様に想定される事態を説明し、それぞれ何が出来るか、行政に望むことは何か、を考えていただくことです。そのことを通して世の中に大きな流れが出来るとよいと思います。ここにおいでの皆様は大変関心の深い方々ですが、新型インフルの基礎的なことすらまだまだ一般都民には知られていないのが現実です。その普及啓発も含め日本全体の中で、東京都の果たせる役割を考えております。

石堂早稲田大学では、学内での策定を協議してきておりますが、新宿区の保健所その他、医療機関をはじめとする関係諸機関の対策方針をうかがってすり合わせをする必要があると考えています。また、大学の周辺の商店街とは、以前からひとつのコミュニティを形成しているため、パンデミック事態の対応に関しては近隣住民とも前もって協議しておく必要があり、大学の策定を軸にしたさらなる総合的対策が求められます。

鈴木現在、企業は企業、行政は行政、地域は地域で計画を持っていることは事実です。しかし、それぞれが同じ方向軸にあるかを検討する取り組みがなされていません。谷口先生のご指摘に、同感です。
企業の中で、取引先との関係は特に重要です。ガソリンを作っても、運ぶタンクローリーがなくてはガソリンスタンドに届けられない。ガソリンスタンドに届けても店員さんがいなければ、ガソリンは売れない。まず我々のところでは事業の流れの中で、関係先への事業位置計画のサポートを行っております。
次に地域、特に行政との接点が重要です。これは私もずっと悩んでいます。少なくとも我々の事業所の管轄保健所長と対策を共有する必要があると考えています。まだ私個人の動きですが、来月から、我々の計画と行政の策定について、ある保健所の方と意見交換を行い、お互いに何が必要かを議論し、補っていきたいと考えています。

長谷川取材をして感じることは、国の対策を厚労省が中心に行っていることです。新型インフルエンザは、災害もしくはテロに近い、社会生活を脅かすものと捉え、都道府県さらにその上の経済産業省や国土交通省などが連携を取ることが大事だと思います。やはり国が中心となり、都道府県単位で実習、防災組織など地域コミュニティを考えていくことかと思います。
95年に阪神大震災が起こるまで、そのような省庁間の連絡はうまくいきませんでした。未曾有の6000数名の犠牲者がでるという阪神大震災で、災害対策が動き出しましたが、一番の問題は、事が起きないと出来ないという日本人の習性です。事が起こる前にできたら、今後いろいろな分野での災害、危機に役立つ指標になるので、ひとつの試金石として、新型インフルエンザを災害として捉えることを推奨できればと考えています。メディアとして、その視点を発信したいと思います。

新型インフルエンザを災害・危機管理の視点で捉えることが大事

谷口(座長)おっしゃるとおり、新型インフルエンザは危機管理の視点から考えなくてはなりませんが、これは日本の最も不得意とするところです。いまだに、パンデミックの準備をして、もし起こらなかったら誰が責任を取るんだという議論が出る。世界各国は、パンデミックの準備は、パンデミックだけではなく、あらゆる自然災害やテロの準備に共通するという認識で行っています。それと垣根を越えた議論が必要です。
3.4年前にアメリカで参加した会議では、地域の感染率1%の段階から全学校を3ヶ月間閉めるという議論がされていました。その3ヶ月間、教師は何をするか、子どもの教育をどうするか、アメリカでは学校給食がなくなると栄養がなくなってしまう子もたくさんいるので、栄養をどうするか、かなり具体的な議論がされていました。遅ればせながら、我々もきちんと議論をしなければならないと思います。 

フロア発言者1パンデミックの時の残された30%の機能で、東京都や企業は対策を立てないと机上の空論ではないか。2つ目は、早稲田大学でスクールローをやってほしい。世界中で日本が一番遅れているのは、ワクチン政策です。アメリカでは、幼稚園も小学校も中学校も高校も大学も当たり前です。やっていない国はG7の中で日本だけです。

谷口(座長)確かに、麻疹のときに文科省は学校に入るための条件とすることをお願いしましたし、アメリカで麻疹が排除された直接の理由はたぶんスクールローですね。日本でも必要で、今後の検討だろうと思います。

フロア発言者2提案ですが、鳥インフルエンザをreverse geneticsで弱毒化し生ワクチンとして世界中の人間に接種するか伝染させる。もう一方で鳥インフルエンザにかかった鳥を駆逐するために弱毒化した鳥インフルエンザを、野鳥に接種して、強毒性の鳥インフルエンザを作らせる。この案をご検討いただければ幸いです。

谷口(座長)インフルエンザウイルスは、かなり頻回に突然変異を起こします。そうしますと、地域に弱毒のインフルエンザウイルスを放った場合、それが伝播する過程で変異を起こして、また新たなウイルスとなってしまう可能性があります。そのため、生ワクチンというのは、まだかなり多くの議論があります。

終わりの時間がせまってきました。しかし、これが始まりです。私がパンデミックに関わり始めて10年経ちました。まだパンデミックは来ておらず、「良かった、まだ間に合う」と思っています。今、パンデミックが来たら間に合いません。
今後ネット上で意見を頂き、皆で議論し、現状を変えていきたいと思っています。