シンポジウム第一部では、実際の医療現場での状況を各先生にお話しいただきました。そこからは、本来は急性期の治療を行うべき一般病棟でやむを得ず、がんの終末期医療を行っている現実、その背景には、在宅で終末期を過ごす患者さんを支える医療機関が少ないという問題があることが浮かび上がってきました。一方、政府側は、一般病棟を急性期医療に特化させ、在宅ケアを充実させた上で療養型病院を減らそうとする動きがあります。財政問題もあって、長期入院ができない仕組みが強化されようとしています。
高崎(座長)現在、一般病棟に入院している終末期のがん患者さんは、どうして在宅ケアに移行できないのでしょうか。
鈴木一般病棟でのジレンマは、どこまで治療すべきか、治療をしてほしいのかの線引きができないことにあります。その一方で、手術を受けた急性期病院で治療を続けたい、転院したくないという患者さんの希望も見逃せません。
厚生労働省はすべて在宅に移行しようとしているようですが、今まで一人暮らし、あるいは夫婦で自立していた高齢者ががんになると、それまでと同じような生活が送れなくなりがちです。また迎え入れる家族のほうでも、核家族化が進んだことによって、昔の大家族のように自宅で病気の人を看た経験がないため、それができない家庭が増えています。
また、たとえそれまで患者さんを家で看ていたとしても、いったん病院に患者さんを委ねると肩の荷が下りることに気がつき、そのまま病院にいてもらうことを選ぶ家族もいます。
そういった患者さんやご家族に対して、すべてを在宅へ移行するのではなく緩和ケア病棟や在宅医療をサポートする機関などを増設、利用することで、受け皿の選択肢が増えれば、半数程度は在宅ケアに移行できる可能性があると思います。
英在宅ケアを進めるにあたっては、急性期医療を担う医療機関が中心となって、門戸を開けて地域を育ててほしいですね。地域に目を向ければ、やってみようという開業医はいるはずなんです。
チームを組めるドクターやスタッフがいれば、在宅医療は支えられます。一人の医師につき、年間20人を限度に看取ることができると思います。
川越訪問看護サービスの立場から言いますと、病院できちんと病状の説明を受けていない人が多いと感じます。だから終末期の患者さんは、「まだ治るんだ、病院で治療を続けよう」と思っている。だから地域に戻ってこられないんです。
医師にとっては大変なことだと思いますが、まずはきちっと自分の状況をわからせてあげてほしいと思います。そして、家に帰りたいという希望があったら帰してほしいと思います。がん末期の患者さんの残された時間は短いのですから、「熱があるから」「一人暮らしだから」「ポートなどという理由で足止めを食わせないでほしい、在宅ケアは医療面でもサービス面でもずいぶん進歩しました。在宅で過ごす可能性のある日数を減らさないでほしいんです。

鈴木医師側も時間をかけてきちんと説明しているつもりです。逆に冷徹に「この薬で治る確率は何%」「それでこのようになる可能性がこれくらいあります」「この治療をすれば治るのは何%」ということを話して、「だから在宅で療養されてはいかがですか?」といういい方をするのもどうかと思います。また、はじめから在宅を希望される患者さんや家族は稀で、終末期イコール在宅が理想というのは、まだ現実的ではありません。厚生労働省の意向で積極的治療の効果が期待できなくなった、すなわち終末期をどう過ごすか、時間をかけて患者さんやご家族と話しますが、
選択肢をたくさん与えてしまって、かえって迷わせてしまうことになってしまうことも事実です。
遠藤(座長)患者の家族の立場から言うと、終末期であっても病院にいたいと思う人が多いのは当然だと思います。在宅で看てもらっていて、何かあったらどうしよう? という気持ちがあるのです。現状では在宅での終末期医療体制を十分信頼している人は少ないでしょう。病院もホスピスを除けば、終末期患者の受け入れについては消極的に見えます。だから、できれば最期まで病院で看てほしい。実際のところ、在宅に移った終末期の患者さんに何かあったら、すぐ病院で受け入れてもらえるのでしょうか?
鈴木私どもの病院では、そこは自信を持っています。地域医療支援病院ですので、患者さんはその地域の医院もしくはクリニックから紹介されて受診します。手術などの治療が終わり、再び地域の医院に返した患者さんも、紹介医からの依頼があれば翌日には診療します。救急の場合は救急担当医もしくは当直医が診ることもできます。地域連携を中心にしたシステムは充実していますし、チームワークはとれていると思います。これらのことは退院にあたって十分説明していますし、入院の必要があればベッドも確保するように努めています。
高崎(座長)今の流れでは、治療を主体にするか、生活を主体にするか、その両極の話になっています。互いに話し合って手を取り合いたいですね。病院でも在宅医療を支えるチームでも緩和ケア病棟でも、連携がうまくいかない、受け入れ機関が少ないといわれます。今ここにいらっしゃっている先生方の現場はうまくいっていますが、どういうチーム構成が理想なのでしょうか、また、そのような連携が広がっていくにはどうすればいいのでしょうか。
英家に帰りたいけれども、悪くなったらどうしよう、という患者さんが多いです。病状が悪化するときにどうするかという問題をクリアすれば、在宅ケアは増えますね。

川越在宅ケアを支えるには、医師、看護師などがチームになることです。うまくチームを組めばそれぞれの負担は減りますので、それが一番だと思います。また、チームになることで緊急時にも対応できます。医療のマンパワーが足りないという事実もありますが、医療だけではなく福祉関係の人や地域の人もボランティアとして一緒にチームを組んで在宅を支えるべきだと思います。
遠藤(座長)患者や家族は在宅ケアに不安をもっています。在宅ケアのできる医師がどれだけいるのか、特に大都市では把握しづらいですし、急変時の再入院のしくみなどがはっきりしていれば安心できるのですが、安心できないから病院にしがみつくのではないですか。
鈴木先ほども少し触れましたが、在宅ケアを受けてからでも、状態の変化により往診医、患者さんや家族の希望があれば、再入院ができるように退院時に「要再入院連絡票」をお渡ししており、安心していただけていると思います。主治医が不在時でも当直医が受け入れ、対応しています。
英患者さんと病院では、どこまでの状態を受け入れられるかの認識にズレがあります。在宅での痛み、熱対策などの対症療法はかなりできると思いますので、この痛みがどういう原因で起こっているのか、介護者(家族)は理解しているのか、そのところの、急性期医療側の医師の説明が弱いと感じます。家族に対してインフォメーションしておくと、あわてふためかないで済みますので、病院の先生には地域を育てる意識をもってほしいと思います。そうすれば、そのうちチームワークや仕組みが育ってくるのではないかと思います。

永皆さんの話を聞いていて、足りないものが二つあると思いました。それは具体的に地域的につながる方法と家族です。
甲府に、ふじ内科クリニックという在宅のホスピス施設があります。そこでは、在宅で看取った家族が次の家族のためのボランティアになるというシステムを作っています。そうすることで「みんなたいへんなんだ」とわかる。家族の出番なのです。
また、秋田の鷹巣町では、町ぐるみで緩和ケアを推し進めようという試みがありました。町長が主体になってすすめていたのですが、選挙に落ちて頓挫してしまいました。ところがその発想が買われて町長さんは、長野県松本市の浅間温泉に呼ばれ、まちづくりを行っています。現在、善光寺を中心に温泉施設でも宿場でも、介護士と看護師の資格を取ることをすすめているそうです。そういう地域があるんです。
また、沖縄の島で、家のお年寄りが認知症になったら、みなさまにその旨ご案内をする町があります。そうすると、町中で見守れて安心です。個人情報なのでお役所では止めようとする動きもあるそうですが、ナンセンスですよ。
ぼくは、命の歴史、命の教育、家族・地域のことがうまくいっていないと感じています。命の歴史を考えていない。地球の命の歴史は36億年。僕は36億75歳です。あなたがたも36億ン歳なんですよ。また、家族の歴史もなくなっています。家族で一緒にいても、共通の体験がないんです。家族が家族でなくなっている。例えばテレビ。お父さんはプロ野球、お母さんは韓流、娘はドラマとそれぞれの番組を見ている。同じ番組を見ない。そのバラバラが日本のバラバラをもたらしているのではと思います。
川越そういった地域との連携の成功例は、あまり知られていません。もっと広く発信していけるように、私たちも努力していきたいと思います。
高崎(座長)緩和ケアは、数年前に比べて本当に進歩してきました。今は終末期でなくても、初期から緩和ケアができるようになっています。これまでは、治療ができないから緩和ケア、でしたが、今は積極的な治療を止めずに緩和ケアもできるようになりました。
林緩和ケアの重要性は、現場でも理解しているとは思います。でも、実際にやるまでにはいっていないと、私たちの外来に来る患者さんの数を見てそう思います。私たちの緩和ケア科にはたくさんの患者さんがきます。うちは医師が7人いるのでもっていますが、普通はそうはいかないでしょう。まだまだ緩和ケアの専門医を多数抱えている病院は数少ないですね。
内布かつては、治療を継続している患者さんは緩和ケア病棟にはいけませんでした。緩和ケア病棟にいくということは、患者さんに終末期であること認識させることでもありました。でもいまは変わってきました。がんの治療も変わっています。抗がん剤も変わっています。副作用も違うのです。昔は、抗がん剤で髪の毛が抜けて、骨髄抑制が来て全身状態が悪くなり、そして感染症で死ぬというプロセスでしたが、いまはそういうことはないと思います。最後まで病気と闘いながら、緩和ケアをうけることも十分可能です。
林それなのに緩和ケアの病棟が増えない理由のひとつには、緩和ケアの現場の医師が少ないことがあります。医師を捜してほしいという要望は来るのですが、実際なかなかいない。看護師は比較的いるのですが。大きな流れとしては、緩和ケア病棟をつくるより、病院の中で緩和ケアチームを作るほうが多いですね。しかし、チームでも症状のケアはできるのですが、心のケアはなかなかできない。やはりそれに取り組む医師も必要であり、病棟も必要だと思います。
内布本来は、ある程度の緩和ケアはすべての医師ができるべきなのだと思います。そのために日本緩和医療学会があり、治療における緩和ケアの普及を図っています。

高崎(座長)医師の育成については、緩和ケア病棟についても在宅ケアについても懸案事項、システムも意識もまだということですね。そして、数少ない緩和ケア病棟に入れればラッキー、という状況です。誰もがいい医療を受けられるようになるにはどうすればいいでしょう?
林従来の終末期ケアとしての緩和ケア病棟、ホスピスは、意味合いが変わってきています。確かに在宅への移行が進むと、従来のホスピスよりお世話できる患者さんの数は増えると思います。国も在宅への移行をすすめていくようですが、もっと一般病棟でも緩和ケアのスキルを磨いてほしいと思います。本当に専門医のケアが必要なこともあるけれど、そこまでいかなくてもいい、一般的な緩和ケアですむことも多いのです。
鈴木確かに緩和ケアのスキルを磨くこと、チームとして取り組むことは大切です。しかし、地域の病院は緩和ケア専門医どころか麻酔科医、神経科医の常勤医がいない中で、我々外科医が主にこれらすべてを補っているのが現状です。本来の業務である検査、手術、外来を終えほとんど自分たちの時間を犠牲にしてやっています。これらの改善も求められます。
内布看護師の使い方を、うまく考えてほしいと思います。実際には、医師が方向性を決め、その範囲内で看護師ができる裁量を増やしていこうという厚生労働省の方向性があります。その結果、条件付きですが死亡の確認すらも看護師が行えるようになってきています。看護師を育成する4年制大学も増えているいまだからこそ、この方向に可能性があると思います。看護師は2年ごとに5万人増加しており、全国で76万人(平成16年)います。ぜひ彼らを活用する方向で育ててほしいですね。それによって医師も確実に楽になります。
看護師はケアを学んでいるので、医療で治療効果が期待できないときこそ活躍のとき、医療が限界になったときこそ看護師が活躍できるのだと思います。とくに生活のケアは得意分野、からだを清潔に保つ方法など看護師にしかできないことがあります。だからこそ、そこをやりたいと思っている人は多い。志向としては興味を持っている人は多いですよ。
川越日本人は医師への信頼感が強い国民性なので、看護師だけでかかわるのはまだ問題があるように思います。むしろ医師とチームを組んで取り組むことがいいと思います。私たちは医師からの指示で動き、そのもとで看護師が裁量権を持って活動をしています。確かに看護師ががんばることで、ひとりの医師が診られる患者の数は確実に増えます。それこそまさにチームの力だと思います。

高崎(座長) 一般病棟、在宅、緩和ケア病棟と移るたびに医師も変わりますが、その連携はうまくとれるのでしょうか?
英ほかの機関との情報の共有には限度があるのが現実ですが、必要なときには連絡を取るような体制を目指しています。また私たちの診療所内では情報の共有は原則です。
鈴木地域の開業されている医師が具体的に何をできるのかなど、それぞれ違いがあると思います。日頃からお互いの顔の見える連携を行い、診療情報の共有化を図ることが大切だと思います。
林 私のところでは同じ機関のことが多いからか、そんなに情報の共有が難しいという認識はないです。
内布患者さんは、医療グループの連携を見ることで安心するものなんです。連携をとっているなら、見える形でとる工夫が大事だと思います。それで患者さんはどんなにほっとすることか。
高崎(座長)患者さんにとって安心できる状況をつくることは大事ですね。同じ施設ならスムーズですが、他の施設だと情報の共有化は問題になります。その辺のシステムがどうあるべきか、解決への道を考えていきたいと思います。
永現場のみなさんにお願いです。どうぞ言葉を大事にしてください。患者の立場からすると、医師と看護師は本来パートナーであるはずですが、日本では上司と部下になっている。そのへんをなんとかしてほしいですね。また、医師としてわかる説明をしてほしいと思います。患者に言葉が通じていないんです。
遠藤(座長)がん終末期における制度を整えることはとても大事ですが、治すことを目的としない緩和ケアに対する医師の価値観や医学界の意識、また医療機関相互での情報の共有の難しさといった医療界の慣行といった部分も無視できない、大事なところだということがよくわかりました。